短編集:名も無き暗殺者

青年は話せる島から小さな漁師の船を借り
静かにアデンへと戻った
青年は鎧という鎧は装備しておらず
武器はスティングと言われる投げナイフとつま先に仕込んであるナイフ
そして、拳にそって装着してある鉤爪(右手のみ)
黒いバフォメットの皮から作った特殊な黒いマントを羽織り
ミスリルで編み上げられた服に
マーメイド達の鱗で作った水の上、水の中でも自由に動くできる事のできるブーツ
とても今から暗殺しに行くような格好ではないのは確かだった
そう、彼はただの旅人と言われても納得するような装備なのだ


依頼人が待つ、グルーディン村の宿屋
女将から鍵をもらい、依頼人が待つ部屋へと向かった
部屋の前まで行きドアを開けた
そこには、太ったいかにもお金持ち的な貴族が部下数人を傍らに置き
ドアに入ってきた青年を見る
下品な笑みを浮かべる太った男はヒキガエルのように醜い姿だ
青年は吐き気が込み上げたが堪えた
太った男が青年に言う
「挨拶が遅れたな、我輩はケント城王立財政官大臣のオルディアスという
 単刀直入に言おう、お主に殺って欲しい人物は・・・・・・・・・
 現・ケント城王国国王ハーディアス7世を殺してもらいたい
 奴の横暴ぶりにはさしもの仕官、村人共に心底疲れ切っておる
 ワシは民の為に奴を殺し、再びケント領を平穏にしたいのだ
 成功した暁にはお主が言うだけの金を用意しよう、成功を祈ってるぞ」
と下品な笑みを浮かべ、青年と契約の印と承諾したという握手を交わす
それが済むと青年は闇に溶け込むように消えていった
残されたオルディアスの下品な笑みは策士の笑みへと変わり
部下へ指示を出す
「全員に通達、今夜【例の作戦】を実行すると伝えろ
 それと、王立近衛騎士団にも伝令だ
 今夜は革命が起きるとは」
オルディアスの高笑いが宿屋の静かな廊下に木霊した




青年は森の中を疾駆していた、息を乱さず、音も立てず
獣が獲物を見つめるが如く目をし
自分の獲物を仕留める為に走っていた