短編集:名も無き暗殺者

それから5年の月日が経った
青年は完全な大人へと成長し
アデン中にその名を知られるようになった
そして、世界中でもっとも賞金の高い賞金首にもなっていた
その所為だろうか同属で同じ村に育ったダークエルフからも
その命を奪われるようになっていた
青年が休まる場所はアデンの中にはなかった・・・


青年は、ある島に逃げ込んでいた
アデンからの唯一の治外法権であり
国を追われた者、何かを失った者、また理想を求める為に旅立つ者が集う場所
「話せる島」通称TIの愛称で呼ばれる
始まりと終わりが集う場所
そこの岸壁で草笛を鳴らしながら
ただ、ただ海を見つめる毎日を過ごしていた
その雰囲気からは彼がアデンで誰もが恐れる暗殺者とは分からないほどだった
そんな毎日の中で、彼が暗殺者の目になる時があった
そう、話せる島にまで賞金稼ぎが追いかけてくるのだ
青年は草笛を吹き終わり、立ち上がり振り返ると
そこには数人の賞金稼ぎがいた
「へへ、最後の笛吹きは終わったか・・・・・・・さんよ」
一人の賞金稼ぎがそう言って勢いよく飛び掛る
青年は飛び掛ってきた賞金稼ぎの動きを見てギュっと拳を固める
剣が当たるか当たらないかの瀬戸際で一歩だけ
ただ、その一歩を一撃必殺の一歩を踏み込むと
固めた拳を鳩尾に貫くように一発だけ決める
それだけで飛び掛ってきた賞金稼ぎは声も無くその場に崩れ去る
青年はそれを表情の無い顔で見て
残った賞金稼ぎを見る
「次に死にたいのは誰だ?」
と呟くと、賞金稼ぎが一斉に飛び掛った


青年は屍と化した賞金稼ぎ達の上に座り何事も無かったように
草笛を吹きながら、ただ海と夕焼けを見ていた
夕焼けに移るその姿は誰もが言葉を発するのを忘れるほど美しく
そして、その瞳はとても儚げだった・・・・・・


青年がそんな毎日を送っていたある日
寄宿先の宿屋の女将から手紙を渡された
極稀にこうやって暗殺の依頼がやってくるのだ
食べる為に、惰性の毎日を生きる為に
青年は今日も暗殺をしにアデンへと舞い戻る
宣告も無く、死を運ぶ金色の死神がアデンへと戻る